【書評・感想】『君と夏が、鉄塔の上』(賽助)

埼玉県を舞台にした、鉄塔に強く魅せられてしまった主人公、伊達成美の、夏休みの間に体験した不思議な出来事を巡る青春ストーリー。

まず小説のタイトルにある通り、鉄塔が物語の中で重要な存在感を放っていることは間違いないです。鉄塔というとすごく地味な存在で、この小説はかなり地味な内容の話ではないかと思いがちですが、出来るだけ専門知識を必要とする話を簡略化し、もっと別のものに例えたりと抽象的な捉え方を意識しているので、誰でも楽しめるようになっています。鉄塔をここまで神秘的かつロマンチックに表現した小説もないんじゃないかと思います。

それから登場人物の魅力ですね。主人公の周りは変な奴ばっかで読んでて楽しいです。まず物語を引っ張っていくのがクラスメイトの不思議系女子、帆月。彼女が涼宮ハルヒ的ポジションで主人公を半ばこき使う形で自分の目的のために呼びつけたりして、ストーリーが進んでいきます。それから地理歴史部部長の木島。中三にしてはすごく大人びた視点で物事を見ている、建設現場マニアの男で、伊達とは気が合い、よくプールに行くが会話が面白い。帆月と同じく、クラスから浮いてしまった比奈山は、伊達と三人で行動することになるが、特殊な事情さえなければ一番の常識人かもしれない。二人をからかっているようで、空気を読んで気を使っている優しさにほっこりします。

この小説のなかに、荒川が出てくるんですけど、私も都内の比較的荒川に近い場所で育ったので、不思議な感覚でした。荒川ってそんなに美しい川でもないし『金八先生』とか『荒川アンダーザブリッジ』とか例外を除けばほとんど舞台になるようなこともないんですよね。しかしこの小説の世界観だとむしろ荒川であることが自然に感じられますし、荒川と鉄塔という組み合わせが絶妙です。荒川を身近に暮らしている方、普段荒川沿いをランニングやサイクリングで走っている方はより楽しめると思います。

結構急展開もありますので、私はこの小説をアニメ映画化しても面白いんじゃないかと思います。実写化もいいかもしれませんね。今までなんとも思ってなかった鉄塔を、日常生活で見た時にこの小説を思い出して感慨にふけることが出来たら素敵ですよね。今中高生の方には夏休みの思い出にもおすすめの一冊です。

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