【感想】『雀蜂』スズメバチが飛び交う家から武器を探して脱出しろ!/(貴志 祐介)

どうも、くらせです。

今日ご紹介するのは、貴志祐介さんの2013年の小説『雀蜂』です。

先に言っておくと、Amazonでの評価は低いです。なぜ低いのかというと、貴志祐介さんの他作品のファンの方たちが、この『雀蜂』にも同じくらいのクオリティの内容を期待した結果、読んでガッカリしたからだと思います。

たしかに『黒い家』や『天使の囀り』などに比べると、話の展開は単調かもしれません。

ですが色々な作家さんの小説を読んでいる私からすると、やはり貴志祐介さんの小説は面白い。今回の『雀蜂』は吹雪の中で別荘の中に取り残された主人公が、家の中を飛び回るスズメバチと格闘し生き残りを目指すサバイバルアクションになっていますが、スリリングな展開が続き、最後まで飽きずにスラスラ読めてしまいました。

あらすじ(Amazonより引用)

11月下旬の八ヶ岳。山荘で目醒めた小説家の安斎が見たものは、次々と襲ってくるスズメバチの大群だった。昔ハチに刺された安斎は、もう一度刺されると命の保証はない。逃げようにも外は吹雪。通信機器も使えず、一緒にいた妻は忽然と姿を消していた。これは妻が自分を殺すために仕組んだ罠なのか。安斎とハチとの壮絶な死闘が始まった―。最後明らかになる驚愕の真実。ラスト25ページのどんでん返しは、まさに予測不能!

ネタバレ無しの感想

改めて何が面白かったのかを整理して考えてみると、家に閉じ込められた状態で、家の中を飛び回るスズメバチからの猛攻をくぐり抜け、部屋を移動しつつ行動範囲を広げていって、最終的な脱出を目指すという話の流れ自体が、まるでゲームをプレイしているみたいで楽しかったんですよね。まずこういう視点から作品を捉えられるかで、評価が分かれると思います。

しかしそう考えると、小説としての評価が低いのも納得できる気がします。私はゲームとして楽しんでいたわけですから。『ダークゾーン』や『クリムゾンの迷宮』もゲームの要素が強い作品で、貴志祐介作品の中でも特に私が好きなのがこの二つでありまして、そんな私だからこそ『雀蜂』も楽しんで読めたのかもしれません。

しかし既存の枠に捉われないタイプの小説として評価することも出来るのではないでしょうか。小説の描き方、捉え方は本当に自由ですから、面白いという声がある以上中身が無いという事は無いでしょう。

途中、主人公が妻・夢子の絵本を勝手に書き換えて、中盤から残酷な展開にしてしまうというものがありました。これが結構ゾクゾクする怖さで良かったです。物語の大筋とは関係ないのですが、小説内の一つのショートショート作品として楽しめるようになっています。

ネタバレ有りの感想

ここからは若干ネタバレ有りの感想を書いていきたいと思います。

もしまだこの作品を読んでいない方がいれば、ここは読まないでください。では、読んでいる時のことを振り返りながらダラダラ感想を書いていこうと思います。

物語の始めの方、私はてっきり主人公の妻の夢子がスズメバチに変身してしまっていて、主人公の顔に向かって飛んでくるのは助けを求める意味なのかなと思いながら読んでいたので、タバコの火で殺してしまった時は結構焦りました。実際、全然そんなことは無くて完全にバカな勘違いをしていました。冷静に考えたら貴志祐介作品でそんなファンタジー展開はあり得ないですね(笑)。

主人公が部屋を移動するごとに、そこにいるスズメバチとの戦闘があって、クリアすると次の部屋に進めるという展開はまさにゲーム的で楽しめました。スズメバチを駆除する専用のスプレーを手に入れた時も、液の残量的に使用回数が限られていて、銃を手に入れても玉数に限りがあるバイオハザードと重なりテンション上がりました。限られたリソースの中で試行錯誤し、最適解を目指していく展開の物語は、ジャンル問わず好きですね

主人公を殺すために家に閉じ込めて嵌めた二人が戻ってきて、地下室へ向かった時にドアを閉めて閉じ込めた時はスカッとしましたね。しかし、最後には主人公の方がヤバい人間だったというのが明らかになってきて、このシーンの見方も変わってきてしまったので、そこは何というかシンプルに復讐劇でも良かったんじゃないかと。ダークゾーンの時もそうですが、主人公が報われないエンドは読者の評価も下がり易いので(『青の炎』は序盤から主人公が犯罪者として話が進むので特殊ですが)もうちょっと読後感を良くして欲しいというのが不満点でしょうか。

まとめ

『雀蜂』は貴志祐介ファンの間でも評価の分かれる作品です。『ダークゾーン』も似たような評価を受けている点で共通する部分があると思うので、そちらを楽しめる人であれば読んでみてもいいのかなと思います。『雀蜂』を楽しんだ私としても、他人に勧める時は相手を選ぶかなという感じですね。それでもやはり小説の文章力は素晴らしく、最後まで飽きずにスラスラと読めてしまうのは評価すべき点です。日々の生活から意識を離して非日常を味わうには十分な作品だと思います。

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