【感想】『竜と祭礼』1~3巻 まとめ

『竜と祭礼ー魔法杖職人の見地からー』(筑紫 一明)

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表紙の絵に釣られて読みました。

『竜と祭礼~』は異世界系ファンタジー小説です。

ファンタジー小説は異世界系にしろ異世界転生系にしろ、西洋的なキャラが主流に感じますが、このヒロインは褐色系の人種ということで、アラブ系の服装になっていますね。色々と異世界小説を読んでいると、西洋的な世界観では非日常を感じにくくなっている昨今では、アラブ系の衣装は異世界を感じ易くて、興味を引きました。

表紙の絵だけでなく、内容にも他にはない特徴があります。まず主人公の男が杖職人だということ。冒険者でもなく、杖を操る魔術師でもなく、杖を作ったり補修することを仕事とする者です。しかもまだ杖職人としての資格をもっていない見習いなのです。偉大なる師匠の最後の弟子というのが唯一の特別な要素でしょうか。

対するヒロインはほぼ全くと言っていいほどデレません。それが作品全体に硬派な印象を与えているように思います。ヒロインがデレないだけで硬派というのはどうかと思いますが、デレデレ系ヒロインが量産されている昨今の異世界事情を鑑みれば、硬派系ヒロインといっても差し支えないでしょう。

ただデレるヒロインにも需要があるからこそたくさん生まれてきたわけで、さすがにここまでデレないと同じジャンルの他作品と比べて不満を持つ読者も、アマゾンのレビューを見た感じでもいると思います。それを緩和しているのがやはり表紙の絵や、挿絵の可愛さ綺麗さだと思うんですね。これは作者というよりは、イラスト担当のEnjiさんの腕が素晴らしいということです。

キャラクターに着目してきましたが、小説全体について考えてみると、この小説のジャンルはファンタジーであると同時にミステリーでもあると思うんです。ミステリーといっても事件を解決していくサスペンスではなく、『ダヴィンチ・コード』や『インディジョーンズ』のような世界の謎に迫っていくタイプのミステリー物ですね。もっと近い例でいうと『ゼノブレイド』でしょうか。

しかし類似作品を挙げられるということは、途中からなんとなく答えがわかってしまったという不幸がありました。わかってしまってもそこでつまらなくなるというほどでもなかったのですが、もし読者側が最後まで真相に気づかなかったたすごく衝撃的だっただろうなと思ったのでそこで評価を下げるような事はしませんでした。

私にとってはこの小説の一番楽しめた所はエピローグにありました。この小説の中でそれほど重要でない人物の描写なのですが、それが悲しくもあり美しくもあって心に残る最後でした。こういう終わり方が出来るのって大筋のテーマがあってそれに向かってストーリーが進行している一方で、あまり出番のないチョイ役の描写を、さりげなく無駄なく丁寧にやっていたからだと思うんですね。そこが読み応えのある作品に仕上がっている要因なのかなと思います。

そしてなんとKindle Unlimitedでは続く2巻3巻が読み放題に含まれています。次巻を読むのが楽しみです。

『竜と祭礼2ー伝承する魔女ー』(筑紫 一明)

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前回の記事に引き続き『竜と祭礼』シリーズの2巻を読破しました。

いい意味で1巻を超えてきましたね。

1巻だけの評価と全然違う評価になると思います。前回の記事ではEnjiさんのイラストを褒めたのですが、今回は純粋に小説として面白かったです。それからミステリーの要素もいきなり2段階くらいランクアップしたように感じました。

1巻では竜をテーマに扱っていましたが、2巻では魔女に関する話となります。作者もあとがきで語っていましたが、第1巻につけてしまったタイトルの、竜の部分がもう2巻では関係なくなってしまってますね。このシリーズに正しくタイトルをつけるとしたら「魔法杖職人と王国の謎」でしょうか。

2巻の何が面白かったかというと、まず1巻で得られた多くの予備知識が、2巻で見事に花開いていった点でしょう。ラノベ作家にも1巻完結型の小説が得意な人と、シリーズ物のように続いていくのが得意なタイプがいると思いますが、この作者は後者になると思います。

それから今回の魔女に関するミステリー要素が面白かったです。1巻の感想では途中から結論が見えてしまったという事を書きましたが、今回は登場人物や勢力が増えたせいか内容が複雑になってきたので、終盤になっても難解で頭を使うのが楽しかったです。いや読み終わった後でも、あれは何だったんだろうと考える要素があり、いい感じに謎が散りばめられていたと思います。もう一回読もうかなと思うくらいに。

魔女を扱うとなると、どうしても世界観が暗くなるので、それもいい雰囲気を醸し出していました。そして魔女に対する人間側の心の闇が描かれていたのもゾクゾクしました。現実世界にも「魔女狩り」という人類の負の歴史がありますので、そことリンクする部分はあると思います。

1巻の記事では硬派系ヒロインと評したユーイですが、2巻でもその評価は変わりませんでした。ちょっと、これデレてるのか?と思う描写はありましたが、ほぼ冷めた対応ですね。そして待望の女性新キャラ「ノバ」登場! しかしこのキャラもテンション低めです。英会話得意そうな名前してるのに会話は苦手なんですね。

一方おじさん新キャラの「ギデンズ」はめっちゃしゃべります。結構セリフが活き活きとしててキャラが出来上がってて好きですね。ギデンズは一応聖職者で、村で村人達に向かって説教のような事をしているのですが、キリスト教の説教みたいに一方的に話すのではなく、村人からヤジを飛ばされながら教えを説いています。要するに説教と落語と演説のミックスみたいな感じですね。こういうちょっとした描写でこの小説の世界観を感じることができたりするのも私は好きですね。

そして今回もエピローグがよかった。やっぱり主人公一行以外のキャラに、少ないページ数で感情移入させるのが上手いですよね。1巻のエピローグ以上にしんみりしてしまいました。しかしこれだけ2巻が綺麗に収まると、3巻でやることが無いんじゃないかと不安になります。どうしても私の中で2巻より評価が下がるんではないかと私は予想してしまいますね。

とりあえず1巻でハマらなかった人も2巻までは読んでみて欲しいですね。

『竜と祭礼3ー神の諸形態ー』(筑紫 一明)

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引き続き『竜と祭礼』シリーズ第3巻の感想です。

今回は副題にもある通り神学的な内容を扱う巻です。それだけでなく、1巻2巻で語られることのなかった魔法杖の歴史についても触れられています。

全体的に3巻だけ雰囲気が明らかに変わりましたね。2巻の感想記事で私が書いたような3巻で勢いが落ちるようなこともなく、全く別の方向に物語が拡張されている。それでいて、ちゃんと『竜の祭礼』シリーズの続編として成立しているところがシンプルに嬉しかったです。

シリーズ全体の感想として、作者は『ドラゴンボール』のように、あらかじめ明らかな伏線として貼ったわけでもないものを、後から回収していく書き方みたいのが上手いですね。例えば2巻で出てきた図書館の館長の女性。1巻ではちょっとだけしか出てきませんが2巻では重要な役を演じています。別に回収しなくても物語上は問題ないが、しっかり繋げてくれるというのは、細かい部分までしっかり読むのが好きな読者にとってはすごく楽しい小説に仕上がっていると思います。もちろん元々伏線として用意した部分もかなりあると思うんですけどね。

さて3巻では物語の舞台がエストーシャという街の修道院となり、季節は冬です。そういうわけで、この巻だけ物悲しい雰囲気を纏っています。しかし、新しく登場したシュノがとても明るい性格のキャラなので、小説が暗くならないようにいい働きをしています。主人公とその周りのキャラがほぼコミュ障なのでありがたいですね。まあシュノも相手の都合無視でしゃべりすぎるところがあるのである意味コミュ障ですが。性別不明なので小林ゆうの声で脳内再生したら面白いキャラになりました。

竜、魔女と来て3巻のテーマは神になると思います。そこも結構深く切り込んだ議論がされてて面白かったのですが、私が一番いいと思ったのはイクスの杖職人としての成長ですね。3巻に来ていよいよ杖職人としての自分の運命を、青天の霹靂のごとく悟るシーンは鳥肌が立ちました。これが1巻の最後のシーンの伏線回収にもなっていたと思います。ここが一番のおススメポイントになりますかね。

それから毎度おなじみミステリーの要素です。1巻2巻では山とか、村や森が舞台となっていたのに対し、今回は街や建物がミステリーの舞台になっていたのが新鮮でしたね。歴史とか陰謀が絡んでくることで今までより複雑になって読み応えのあるものに仕上がっていると思います。また私が1巻の感想で書いた「ダヴィンチ・コード」の例えとか、2巻の感想でつけた「魔法杖職人と王国の謎」というタイトルに小説の方が近づいて来たのも面白かったです。

残念な点を挙げると挿絵がシンプルすぎたところですかね。2巻だと新キャラのノバだけでなく、今のところ2巻だけ登場のカミラの絵をしっかり描いていたのに、3巻で重要なキャラだったシュノの絵が全く無かったんですね。イクスかユーイかノバの絵しかないのは、あんまり意味がない気がしました。要するに脳内で補えない範囲をイラストで補って欲しいのに肝心の部分が絵で表現されていなかったということです。これは色んなラノベで経験したことなのでこの作品だけの不満点ではないですけど、今回もその例に及んだということですね。

今回エピローグはそこまででは無かったのですが、読み終わってから改めてプロローグを読み返してみると、気づきというか「どう考えてもやっぱりそうだよな……」と思う部分がありました。

そのプロローグの最後の方で、イクスを雪、シュノを花と表現しているところに深い意味はあったのでしょうか? 自分の読解力がなくて作者の真意に気づけないだけなのか、それとも杖職人見習いの二人の運命的な出会いを表現した以上の意味はないのか、あるいは続編に続く伏線なのか。この不満点に関しては私が続編を望んでいるという事なのかもしれませんが。

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