【感想】『牛家』ゴミ屋敷の中から出られなくなってしまう!?/(岩城裕明)

以前紹介した『三丁目の地獄工場』を読んだ時に、一緒にダウンロードしておいた『牛家』。ずっとKindleの中に眠っていたのですが、ちょうど読みたいなという気持ちが高まってきたので、「今だ!」と思って読んでみました。この本は看板タイトルである『牛家』と、『瓶人』との二本立ての収録になっています。

牛家

清掃業者として働く主人公が、ゴミ屋敷の掃除をすることになり、作業を続けていく過程で様々な奇妙な出来事に遭遇し、翻弄されていくホラー作品。この作品は第21回日本ホラー小説大賞で傑作に選ばれたことで注目を集めたようです。各サイトのレビューを観た印象では、賛否両論という感じでした。理由としては内容が難解であり、一般的な小説のストーリーの構成からすると支離滅裂で、作中の状況理解も難しく、読み終わった後も結局なんの話だったか分からないからかなと思います。実際こういう文章を書けるのは才能だと思いますし、だからこそ入選されたのだと思いますが、シンプルに恐怖を楽しみたい読者にとっては求めていない作風だったのでしょう。ホラー小説大賞でもエンタメ的な怖さより文学的な要素とか作品の芸術性みたいなのが評価される傾向にある気がするので、よくわからないものを楽しめる感性を持った方であれば楽しめると思います。

私自身はそれなりに楽しめました。元々岩城裕明さんの奇妙な状況のなかで交わされる登場人物たちのシュールな会話で笑わされるという作風が好きでしたし、それだけで終わらず最終的にはちゃんと怖いのがいいんですよね。『牛家』に関しては奇妙な夢の中にいるような世界観の話でした。というか実際に、部屋のドアを開けたらさっきとは違う風景になっていたり、現実にはあり得ないような現象が起こりまくるので、最初から全部夢の中で起きた話なんじゃないかとも思える内容なんです。

私なりの考察

最初に言うと牛家というのは牛が住む家ではなく、家そのものが牛の胃袋の中なのではないかと思ったんです。作中でわざわざ牛の胃袋は4つあり、牛は飲み込んだものをまた口に戻して反芻するという説明がなされるのもそれを暗示しているのではないかと。この場合の胃袋とはゴミ屋敷の各部屋のことで、主人公たちはゴミ屋敷の中で消化されていくわけです。この消化というのは物理的な消化ではなく、そもそもこの「牛」は時空外生命体なので、我々の理解を超えた形で取り込むのです。

ここまで読んで、ブログ主はずいぶん想像力が豊かな人だと笑うかもしれませんが、元々考察は得意な方ではないので正直わかりません(笑)。ネットで調べてみても考察している人がいないようなので、自分なりに考えてみました。全てが夢だとすれば、牛というのは主人公の中にある実体のない恐怖が具現化したもので、あの血だらけの部屋は主人公の妻の子宮を表しているのかもしれません。

瓶人

牛家よりも評判のいい作品です。読んでみれば納得ですが、ストーリーはわかりやすいです。瓶の中に死体を入れていろいろとやった後、3日経つと瓶人としてよみがえるという奇妙な瓶を扱った話。ホラー小説ながら恐怖というよりは不気味な内容ですが、読んでみた印象では人間ドラマを重視した作品だと思います。主人公の家族に対する考え方が変化していくところに感情移入してしまいますし、ちょっとしたバトルシーンもあるのでエンタメ性もあります。

時系列的にこの『瓶人』の前の話に当たる『女瓶』が『三丁目の地獄工場』に収録されていまして、私は先にそっちを読んでいたので続編としての楽しみ方も出来てより楽しめました。まさかあの人があんなクズに成長してるとは(笑)。『女瓶』の方では人間の不条理さとか描写のグロさとかで、より暗い世界観になっているのでそちらもおすすめですね。いずれにせよ瓶人そのものの怖さよりも、瓶人という選択肢がある時に人はどれだけ人の道から外れてしまうかという儚さが描かれているような気がします。

まとめ

角川ホラー文庫から出版された今作『牛家』は『牛家』と『瓶人』の2タイトルのみ収録された本です。そのため、一話あたり一時間くらいで読み終えることができるので大体2時間くらいで読破できますので、ちょっとした時間に読むのに最適です。私としてはこの後に出版された『三丁目の地獄工場』のほうが最初に読む岩城裕明作品としてはおすすめなので、そっちを読んでからハマったら『牛家』や『事故物件7日間監視リポート』とかを読んでいただけたらよいかと思います。『牛家』はレビューを読んだ印象でも結構難解な小説で上級者向けかなと思うので、まずは上に挙げた作品を読んで自分に合う作家かどうか試してもらえると嬉しいです。

それではまた別の記事でお会いしましょう。

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【感想】『牛家』ゴミ屋敷の中から出られなくなってしまう!?/(岩城裕明)” に対して1件のコメントがあります。

  1. UlrikeE より:

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