【感想】『名探偵の証明』/名探偵とは何なのだろう?年老いて引退した名探偵による推理と苦悩(市川 哲也)
こんにちは
今回ご紹介するのは、市川哲也さんによる推理小説『名探偵の証明』。名探偵の証明はシリーズ化しており、既に続編の3巻が出版されていますが、今回はその第一作目を読みましたので、核心的なネタバレをしないように感想を述べていきます。まずはあらすじを載せておきます。
公式のあらすじ文
そのめざましい活躍から、1980年代には推理小説界に「新本格ブーム」までを招来した名探偵・屋敷啓次郎。行く先々で事件に遭遇するものの、驚異的な解決率を誇っていた――。しかし時は過ぎて現代、ヒーローは過去の事件で傷を負い、ひっそりと暮らしていた。そんな彼を、元相棒が訪ねてくる。資産家一家に届いた脅迫状をめぐって若き名探偵・蜜柑花子と対決から、屋敷を現役復帰させようとの目論見だった。人里離れた別荘で巻き起こる密室殺人、さらにその後の名探偵たちの姿を描いた長編ミステリ。第23回鮎川哲也賞受賞作、待望の文庫化。
私の読んでみた感想
・読み始めの印象
正直最初に読み始めた時は、いきなり事件が発生した段階から始まり、登場人物がどういったキャラクターなのかも把握できないまま話が進んでいってしまったので、ちょっと頭がついていけませんでした。これがつまらない小説であれば、「なんか合わないな」と思ってこの段階で読むのをやめてしまうこともあります。しかし私は、いきなり説明を省いて重要なシーンを持ってくるのは、その後に本当の物語のスタートを添えるための前振りなのではないかと判断してとりあえず読み進めることにしました。
実際それはその通りになりました。『名探偵の証明』は序盤をある程度読み進めないと、ストーリーの骨組みが見えてこないような小説なのです。ですのでこの本の評価は、二つ目の事件が終わったところまで読んでみてからするべきだと思います。そして私がそこまで読み終えた時には大分この小説が面白いと感じ始めていました。その理由としては、この小説は推理小説に見せかけて、その実主人公である探偵の男の葛藤を描いた人間ドラマだったからです。
・『名探偵の証明』の特徴
推理小説というのは、名探偵というのは全てを見通す超然的な立場に置かれており、主人公目線の役割としてはその助手などに充てられ、名探偵はなんだか超能力者のような特殊な人間として描かれる傾向にあると思います。しかし『名探偵の証明』では主人公の名探偵の内面の描写に重点を置かれていて、例えば老化による思考力の低下が推理する時の障害になる不安や、マスメディアなどによる探偵業へのバッシングの辛さなどをわざわざ物語に取り入れているのです。そういう意味で『名探偵の証明』は名探偵という特別な存在を、普通の人間として読者側に引き込んだ作品とも言えます。
それから『名探偵の証明』には、いくつかの転機と呼べるものがあります。あらすじの範囲内で少し小説の内容に触れると、主人公の屋敷啓次郎がある理由で探偵業を引退したということで、探偵に戻るべきか戻らざるべきかをすごく悩みます。最終的にどういう結論に至ったかは本書で読んでいただくとして、一つの小説内で屋敷啓次郎の人生観が変化するような転機があることで、読み終わった後に一つの人生を体験したような時間の重みを感じます。「名探偵の証明」という小説タイトルは小説内で出てくる屋敷啓次郎が書いた自伝のタイトルから来たものですが、以上の理由から考えますと、名探偵にも普通の人と同じように老化や葛藤と戦っている人生が在ることを証明した作品なのかもしれません。
まとめ
『名探偵の証明』は名探偵・屋敷啓次郎という男の名探偵としての立場から推理や葛藤を描いた小説です。高度なトリックを扱った推理小説を期待して読んでしまうと、微妙かもしれません。そもそもこの小説のテーマは等身大の名探偵という人間を描いたドラマだからです。だからこそ、これまで数えきれないほど作られてきた推理小説というジャンルの中でも、他の小説と被ることが無い新たな作風を生み出したと言えるでしょう。この感想記事では、表紙に書かれた金髪の女の子については触れませんでした。彼女がどういった存在なのか、その辺も含めて興味があれば是非読んでみてください。
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