【感想】『再生 角川ホラー文庫ベストセレクション』(綾辻行人 井上雅彦 今邑彩 岩井志麻子 小池真理子 澤村伊智 鈴木光司 福澤徹三)

本日紹介する本はまたもやホラー小説です。

これまで紹介した本とは違い、角川ホラー文庫が選び抜いたホラー小説の短編の傑作選という事で、8人の作家の作品が楽しめます。

今回私はこれらの作家さんの本を全員読んだことがなかったので、多くの新しい形の小説との出会いを経験しました。私のように何か新しい作家さんの本を探している時には非常にピッタリの本ではないでしょうか。

本全体の感想としては、「本当にあった怖い話」みたいだなという印象ですね。それも最近のあまり怖くない奴じゃなくて、しっかり色んなタイプの話があってしっかり怖がらせてくれるという満足感がありました。こんな暑い季節には持ってこいです。

最後の解説の部分で、角川ホラー文庫の大まかな歴史についても触れているので、ホラー小説とは何か?という問いに対しての一つの答えのような本になっていると思います。

今回も短編ということで、一つ一つの話毎に感想を書いていきたいと思います。

「再生」 綾辻行人

実は綾辻行人さんの本を読むのは初めてでした。『Another』のアニメは見たことありましたけど、あれは結構怖かったですね。この本の「再生」ですが、出だしの印象としては結構普通の文章を書くんだなといった感じでした。最近変化球的な小説ばかり読んでいたので、癖のない文章に物足りなさを感じてしまうのでしょうか。

後半からちょっと面白くなりましたね。ただの異常な体を持った人かと思ったら、その人の人間的な狂気も出てきてゾクッとしました。終わり方も「そんな終わり方ってあり!?」と言いたくなるような終わり方で面喰いました。

「夢の島クルーズ」 鈴木光司

この話は全体で一番面白かったですね。8作品ある中で二つ目の話で最高傑作を見つけてしまったのはある意味残念ですらあります。

話の始まりは、主人公の男がある夫妻にヨットに乗せられ東京湾をクルーズしているのですが、この夫妻がマルチ商法に勧誘してくるので断りたいという状況です。これは自分たちがどれだけいい思いをしているかをヨットで見せつけ、さらに船上に持ち込むことで断れない状況を作り出すという、幽霊とは別の意味で怖い嫌なシチュエーションから始まるわけです。こういう最初の設定が面白い。

それから、主人公がそれに対してなんとか嘘を並べて断ろうとするのですが、その時の心情が大人になりきれない子供のようだと表現している。たしかにそんな状況で嘘をつくとそんな気持ちになりそうだと、リアリティが生まれます。こういう前半で読者に当事者意識を持たせて物語に引き込み、後半で徐々に怖がらせていくという技術が上手い。ホラー小説家以前に小説家として腕がありますね。

読み終わってから調べたのですが、鈴木光司さんは「リング」の原作者だったんですね。いや知らなかった、どうりで(笑)。

「よけいなものが」 井上雅彦

星新一のショートショートのような作品です。ホントに短い。

五月の陥穽」 福澤徹三

読み方は「ごがつのかんせい」落とし穴のことですね。この話は幽霊は出て来ず、シチュエーションホラーというやつですかね。海外の映画だとこういうのを見たことがあります。とにかく残念で悲しい状況に主人公が追いやられると。こんなん嫌ああああという話。

「鳥の巣」 今邑彩

一番お話として綺麗にまとまっていたと思います。この本の中では2番目に好きですね。この話の特徴としては、二重の怖さがあるということですね。幽霊的な怖さと、人の先入観からくる狂気的な怖さがあります。ちょっとやばい人が出てくるんですが、その人の描き方がよかったです。

「依って件の如し」 岩井志麻子

岩井志麻子さんの作品を読むのは初めてでしたが、「ぼっけえ、きょうてえ」で有名なことは知っていました。

正直私には合いませんでした。すごく独自性が強い文章で、全体的に読むのに苦労しました。おそらくこの方は文学的な文章を書くのだと思います。しかし私は有名な文豪の小説にも興味がないし、ホラー小説に求めるものは標準語で現代人にも共感できるシチュエーションなので、残念ながらどう楽しめばいいかわかりませんでした。

「ゾフィーの手袋」 小池真理子

それほど話に展開はありませんでしたが、怖さとしては一番だったと思います。やっぱり家の中での恐怖体験なので、実際読んでる途中でも家にひとりでいるのが怖くなって辺りをキョロキョロしてしまいました。主人公の怯えがリアルだったので、そこの心理描写が秀逸でしたね。

「学校は死の匂い」 澤村伊智

小学校を舞台にした、幽霊の噂の実態を解き明かすお話です。この話に関して思うのは、主人公の女の子が完全に女版の比企谷八幡ということですね(笑)。いやちょっとひねくれすぎだろう……と。そういう感じなんで話としてもご都合主義的な部分が気になりました。つまらなくはなかったですが、本怖にありそうな話でしたね。

以上の8作品が収録されています。

まあ8人も作家がいるんで自分に合う人合わない人がいると思います。逆にビビっと来る作品にも出合える可能性が高いので、新たなホラージャンルとの出会いを求めている方にはおすすめの一冊となっています。私は鈴木光司さんの他の小説も読んでみようと思います。ただ「リング」はちょっと怖そうなのでやめとこうかな……。

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【感想】『再生 角川ホラー文庫ベストセレクション』(綾辻行人 井上雅彦 今邑彩 岩井志麻子 小池真理子 澤村伊智 鈴木光司 福澤徹三)” に対して1件のコメントがあります。

  1. SungM より:

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