【感想】『僕らはどこにも開かない』(御影 瑛路)

『僕らはどこにも開かない』は電撃文庫から出版されたライトノベルです。

しかし内容はライトというよりはヘヴィです。ここまで人間心理を深く掘り下げたライトノベルも無いんじゃないかと思います。人の心の触れてはいけない部分まで切り込んでいます。

主人公、柊耕太はある日下駄箱で香月美紀に話しかけられます。「あなたはあたしが魔法で護ってあげるよ」この小説でいう魔法とはファンタジーの世界でいう魔法とは異なっています。読心術とか、人の心を蝕む呪術のようなもの。じゃあ魔法が存在しないのかと言われるとそれも違います。松見先輩の能力に関してはどう見ても現実ではありえない要素があります。

ものを飛ばしたりする魔法ではなく、あくまでそれが人間のパーソナリティや技能の延長として魔法と呼んでいる所に、読者に現実に起きている話だと思わせるリアリティがあります。

それから個人的な感想になりますが、主人公のパーソナリティは私自身とすごく重なる部分がありました。あとがきで作者は高校時代の自分をモデルにしたと語っていますが、おそらく同じような感性の人が一定数いるからこそ心に響くと感想を述べる読者がたくさんいるのだと思います。その感性というのが、他人の内面を善悪ではなくただ理解しようとする真っ白な性格です。『ハンターハンター』でゴンに対しそのような評価をする描写がありましたが、ゴンからさらに積極性を取り除いたような内面です。

真っ白だからこそどんな邪悪な色にも染まってしまうという危険がある。しかしこれは小説家には必要な能力だと私は思います。あらゆる人間の性格や考えていることが理解できるからこそ作者はこのような小説が書けたのではないでしょうか。また私自身もこれほどまでに小説を読むことが好きになれたのだと思います。

また、この小説を一際面白い物にしている要因に松見先輩の存在が挙げられます。彼女の登場シーンから明らかに雰囲気が深刻な物に変わりました。この小説で最も不気味で最もコミカルな彼女の登場シーンはいつもワクワクしてしまいます。読み終わった感想としては、「やっぱ無理」でしたが……。

あとがきで作者の苦悩が語られています。最初はこの本が世間に公表されるのが怖かったと言います。自分の作品というのは自分の肉体以上に自分らしさというものが宿るものです。しかもこれだけ内面に深く切り込む作品となると、人に読まれる=自分の中を覗かれるという恐怖もあったのではないでしょうか。しかし作者は最終的に人に読まれたいと思うようになり、加筆修正して出版に至ったそうです。その心理的変化に、今私は非常に助かっています。

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【感想】『僕らはどこにも開かない』(御影 瑛路)” に対して1件のコメントがあります。

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