【感想】『ダークゾーン』(貴志祐介)
どんな本?
どうも、蔵瀬です。
現在、Kindle Unlimited で読み放題対象となっている、貴志祐介さんの『ダークゾーン』を読み終えました。当ブログで貴志祐介作品を取り上げるのは、以前紹介した『天使の囀り』以来となりますね。その間に『黒い家』も読みましたが、こちらは気づいたら Unlimited 対象商品から外れていました。
上に挙げた作品の後に読んだため、それまでの現実世界を舞台にした、サイコ、ショッキング・ホラー作品とは違い、異空間で繰り広げられる頭脳バトルの話だったので、ホントに同じ作者か!? と驚きました。
アマゾンでのレビューを見た感じでも、それまでの貴志祐介作品のファンからは、路線変更についていけず、残念がる意見が見られます。一方で、これはこれとしてシンプルに頭脳戦としてよく描けているという高評価の声もありました。他の作品と比べると、星の点数が低いのも、そういった事情によるものだと思います。
この小説を楽しめる読者としてまず、軍艦島を舞台とした特殊能力ありのデスゲームと聞いて面白そう!思えるかどうかですよね。合わない人は、最初の数ページを読んで、ゲームの世界のような用語に違和感を覚えて、うまくイメージできなくて内容に入り込めないと思います。それから駒たちの風貌や、昇格によるフォルムチェンジの描写に関しても、そういったおどろおどろしいモンスターが出てくるゲームや、ポケモンの進化の時のような動きを、見たことがあるかどうかで、読者にとってのイメージのしやすさが変わってくると思います。
さて、私自身はといいますと、滅茶苦茶ハマりました。読み始めた時から、「あ、これ私が好きなやつだ」と気づき、ページをめくる手が止まらないくらい熱中出来ましたね。似ていると思う作品を挙げると、スクエニが作った『すばらしきこのせかい』でしょうか。渋谷を舞台にしたアンダーグラウンドで、望まない死神ゲームに参加させられ、ストーリーが進むごとに主人公の現実での境遇が明らかになっていくという展開が近いものがあります。現在アニメが放送中です。
ゲームのルールに関しては、自分の駒である人間たちを、王が自由に動かして相手の王を先に打ち取った方が勝ちという基本ルールや、打ち取った相手の駒を自分の持ち駒とし、任意の位置に再召喚できる点や、ポイントがある地点に達すると歩がひっくり返ってと金になるような”成り”の要素もあるので、将棋に近いものがあります。
しかし立体的に動き回る点や、駒ごとの攻撃力の違いがあるため、私はスマホゲームの『クラッシュ・ロワイヤル』も連想しました。ポイントによる自ユニットの強化という点はタワーディフェンスゲームっぽい要素ですね。おそらく eスポーツに詳しい方なら、もっと相応しい例えを挙げることが出来ることでしょう。
登場キャラクターに関して、私が一番気に入ったのは一つ眼(キュクロプス)ですね。こいつも主人公が操る駒の一つなのですが役割が特殊です。見た目は赤ん坊のような感じなので、戦闘には全く向いていません。一つ眼(キュクロプス)は、味方の中で唯一このゲームのルールを知っており、時々主人公にアドバイスをくれます。しかし、いつも主人公の状況が絶望的になってから初めて、今の状況の解説と同時に重要な情報を提供するので、「そういうことは先に言え」と毎回ツッコミを受けていて笑えます。
声に関しては、赤ん坊のような声と書かれていますが、私は『寄生獣』に出てくる「ミギー」のような声で脳内再生していました。キャラ的にも近いものがあるので、この作品内で一番の萌えキャラになってくれました。
結末に関しては、他の方も書かれているように、少し物足りなさがありました。序盤に期待したようなカタルシスは得られなかったですね。ちょっとこの段落だけネタバレを含みます。塚田に訪れた悲劇に関しては、あまりにも運が悪すぎたとは言え、梓に諸悪の根源があると思ったので、梓がダークゾーンの世界にも表れずに普通に生きている事に違和感が残ります。それかあそこまで塚田に執着したことに深い理由が欲しかったです。ダークゾーンとは塚田が無意識に生み出した理想の世界だと思います。あんな廃墟が並ぶ真っ暗な孤島で、生死をかけた殺し合いを繰り広げる世界が理想なのか? と思われるかもしれませんが、私はそう思います。断章にもあったとおり、塚田は恋人の理紗に対して、自分がいる将棋の世界の厳しさと、理沙のいる囲碁の世界の違いに寂しさを感じていました。おそらく塚田は理紗に自分がどんな苦しい世界で戦っているのか理解してほしかったのだと思います。自分が戦っている戦場で、好きな女の子が共闘してくれるというのは、とても幸せなことだと思います。こんな真っ暗な世界が塚田にとっては現実よりよっぽど理想に近い世界だったというのが、塚田の人生を表現しているようで切ないですね。それから奥本は最大の敵であって欲しかったという願望も表れているようです。奥本にも罪の部分はあるとはいえ、ここまで敵として認識してしまったのは、梓のセコい嘘が原因でしょう。しかし梓が最大の敵として対峙したわけではありませんでした。そこにも塚田が理紗を100%信じてやることが出来なかったクズい部分があったというのが、作者による人間心理のリアリティの出し方なのかもしれません。私はこの部分はあまり好きじゃないです。
とはいえ、今作品の見どころはやはり頭脳戦だと思います。局が変わるごとに、前局などで発覚した新事実を元に新しく戦い方を組み立てていくので、同じような戦い方は一つもありません。この辺がルールやマップを理解していなくてもスラスラ読めるくらい文章が上手いですね。
それからバトルも熱いです。各種特殊能力を持った役駒の活躍が、地味な駒取り合戦にならないようゲームに華を持たせています。特にゲームを面白くさせているのは昇格の要素でしょうね。自分の駒が強化された時の頼もしさはさることながら、敵の駒が昇格し、圧倒的強さを見せられた時の絶望感は、この小説全体のダークな雰囲気と相まって恐ろしい印象を持ちました。
軍艦島は2015年に世界文化遺産に登録されましたので、今後訪れる予定のある方、もしくは既に訪れた方は、この小説を読むことでより軍艦島を堪能することが出来ると思います。新しい小説の分野の王道を築いた作品だと思いました。
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