【感想】『しにんあそび』(福澤 徹三)/ホラー小説と思いきや・・・?

どんな本か

福澤徹三さんの短編集です。怖い話から変わった話まで、11の短編から構成されています。今回はそれらを私が面白いと思った順に、ランキング形式で感想を書いていき、その後全体の感想を述べたいと思います。ネタバレはしないように気を付けて書きます。

11位 ゴミ屋敷

家の近くに佇むゴミ屋敷に関するお話。面白いですがゴミ屋敷が出てくるお話のオチってだいたいこれだなと思ってこの順位です。

10位 やぶしらず

二つ目の作品。送られてくる手紙に不穏な空気が漂う短い話。かなり短い話で、そこまで怖くないのですが、怖さにリアリティがあります。

9位 元日の老人

5個目の作品。病院内の老人視点で話が進んでいくショートショート。オチまで読まないと何が起きているかわかりません。

8位 年始のやりくり

8個目の作品。主人公の男の状況は最悪ですが、全体的にコミカルでオチもちょっと間抜けで笑います。登場人物全員おかしな人たちばかりで、私が以前ブログで紹介した『神のゴミ箱』を思い出しました。この話も非常に短いです。

7位 お化け屋敷

最初のお話。離婚したのに娘との関係を断ちたくない男の話。男はお祭りで娘とお化け屋敷に入っていく。外で待っていた元妻は、いつまで待っても二人が出てこないことに、次第に不安になっていく。この話も色んな意味で怖さを感じます。一番最初の話ということで、「この本に収録されている話は全部こんな感じでいきます」という自己紹介のような話でもあります。

6位 孤独な幽霊

9番目の話。ある夫婦が引っ越してきたマンションの部屋に、怪奇現象を思しき出来事が何度も起きる話。日中家にいることが多い妻はだんだんと狂っていく。この短編集の中では一番幽霊っぽい話ではあります。ただこの話はホラーより人間の描写が上手いと思います。福澤さんはうまくいかない生身の人間の必死に生きる姿を描くのが上手いから読んでいて色んな感情が湧いてきます。怖い話ですが読後感は悪くないです。

5位 かくれんぼ

6番目のお話。夢を追いかけている男と一緒になってしまった女が、お金に困り実家に帰っている話。その女には昔その家で一緒にかくれんぼをして遊んだ女の子の友達がいた。しかしそのかくれんぼを最後に女の子は消えてしまったのだ。この話も幽霊的な怖さもあるのですが、追い詰められた人間が何をするかわからないという怖さ、そもそもそんな状況まで追い込まれる人生の怖さなんかも感じてしまう話です。

4位 やどりびと

3つ目のお話。男女4人が日本の辺鄙な島に遊びに行くお話。不運なことに4人は帰りの船に乗ろうとした時、エンジンが故障してしまったため、今日はもう船は出ないという。仕方なくその島で今晩過ごさなくてはならなくなる4人。そのうちの一人の女子が昔心霊スポットに遊びに行った時に何かにとり憑かれたという。その女子が異様な行動を起こし、大変なことになっていく。この話は日本の秘境を舞台にしたホラーという事で鉄板ネタではありますが、外していません。ちょっとオカルトっぽい内容も含み、読み終わった後あれはどっちだったんだろう?と考えてしまいます。

3位 骨

7つ目のお話。町の駅前に建っている大手百貨店にまつわるお話。その百貨店は最初に建てられた時、土地の都合上そこに元々あった神社を取り壊さなくてはならなかった。それは実行に移されたわけだが、その神社の地面からは何百という膝を抱えた姿勢の人骨が見つかった。その呪いかは定かではないが、その百貨店で経営していた企業は経営不振に陥り、撤退していく企業が後をたたない。そこで働く従業員からも怪奇現象を見たという噂をかなり聞くという……。このお話は、ホラーというよりはその時代の百貨店で働く人たちのリアルを描いたという点で興味深かったです。日本の労働体質のブラックさを感じるという意味ではホラーではありますけど。移り変わっていく時代に、かわらずそこに佇み続けている百貨店のビル。歴史の流れと、そこで苦しんできた人々の生活の重みを感じる作品です。

2位 昭和の夜

最後のお話。人事部長との酒の席で、揉めてしまった男は部署を左遷されてしまう。それに怒って男は人事部長に辞表を叩きつけるが、後で冷静になって撤回するその態度も人事部長に怒られてしまう。上手くいかない人生の中、旧友のいる北九州へと顔を出しに行くのであった……。この話は最後に読むのに相応しい内容で大変満足しました。思わず「人生こんなもんさ」と言ってしまうような作品です。

1位 しにんあそび

10番目の作品。しにんあそびとは四人遊びの事。雪山で遭難した4人の男が夜に避難小屋で眠らないようにある遊びを始めたという話がある。4人は小屋の四隅に位置取り、最初の一人が左回りに別の角にいる人にタッチし、それを受けた人が移動して次の人にタッチしていくという流れ。これによって朝までしのぎ、無事生還したという話だがおかしな点がある。このルールを成立させるためには5人必要だからだ。小屋にいた5人目とは一体何者だったのか……? という逸話にまつわる話。この短編での主要人物はアラサー女子4人です。本書のタイトルになっているだけあって、この話が一番面白かったです。やっぱり自信があったからタイトルに持ってきたんだなと思う内容でした。

全体の感想

福澤徹三さんの小説は初めて読んだのですが、この人は人間模様を描くのがすごく上手いなと感じます。他人の人生をのぞき見しているような感覚で読める小説でしょうか。特に男性作家の中ではリアルな女性の思っていることを描けるっていうのがすごいと思います。それから人生に追い詰められた最底辺の人間の描写も上手い。これは社会の闇というよりは、人間社会の真実の部分を描いているような描き方です。

この短編集に関して言うと、これはホラー小説ではなく不気味な雰囲気のなんとも形容しがたい読後感に酔いしれる作品集だと思います。作者もあとがきでこういった小説のジャンルを「奇妙な味」と言っており、これは江戸川乱歩が使った表現らしいです。つまり表紙の絵などで幽霊の出てくるホラー小説を期待するとちょっと違うかもしれません。ただ私の読んでみた感覚からすると、これはこれで面白いと思う人が多いのではないでしょうか。他人の人生を想像するのが好きな人におススメの短編集です。

本書のAmazonリンクはこちら

【感想】『しにんあそび』(福澤 徹三)/ホラー小説と思いきや・・・?” に対して1件のコメントがあります。

  1. NorrisF より:

    Very interesting subject, thank you for posting.Raise your business

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です