【感想】『カラスの親指』深刻な裏社会をテーマとした犯罪モノと思いきや、笑えるホームコメディでもある……?/(道尾秀介)
道尾秀介さんの『カラスの親指』を読んで、面白かったので紹介させてください。
道尾秀介さんの小説はこれまで6冊読んだことがあったのですが、これが一番面白かったです。
道尾秀介の作風
この方の書く小説は、基本的に暗めの内容が多いです。
しかし、陰鬱というわけではなく、人物の心理をかなり深堀しているせいでそう感じるのだと思います。
なんとなくハッピーエンドと思えるようなラストも多いので、読み終える頃には何か清々しいような気分になっている事が多いです。
『球体の蛇』なんかは、全体を通してシリアスな雰囲気でしたが、やはり終盤は明るさを有していました。
短編集の『鬼の跫音』なんかはホラー小説と言えるほど暗い内容でしたが……。
そんな中で、この『カラスの親指』を見てみますと、たしかに借金地獄を扱っている内容なので重い部分はあります。
しかし、主人公周りの会話劇が中々コミカルで、結構笑えます。
実際2012年に阿部寛を主演としたドラマ化がされているので、大分明るいですね。
そんな本小説のあらすじをご紹介しましょう。
あらすじ
主人公の武沢竹夫は暗い過去を抱えていた。
自分の妻に先立たれ、ギャンブルにハマっている仕事の同僚の連帯保証人になってしまい多額の借金を抱えてしまった。
一人娘を生かしていくための資金を得るため、自らも詐欺で人から金を巻き上げる仕事を引き受けてしまう。
そんな中、ある家庭から借金の催促を行っている時、その女性がついに子供を残したまま自殺をしてしまった。
自分がやっている事にわけがわからなくなった竹夫は、闇組織の顧客データを盗み、警察に届けた。
それで組織はめでたく解散、竹夫は平和な日常生活に復帰となる……はずだった。
時は過ぎ、色々な事があって竹夫はまだ詐欺を働いて生活を食いつないでいた。
テツという相棒と共に街を歩いていた所、男から財布を盗んでいるのがバレて逃げている少女を見つける。
同業者としてその少女を救う事になるが、話を聞いているとどうもその少女は竹夫と因縁の深い存在であることが見えてくるのだった。
読んでみた感想
ミステリーとしても、会話劇としても、人間ドラマとしても面白いです。
ミステリー要素に関しては、物語全体を通して読者を欺くようなものですね。
よく映画のキャッチフレーズで「あなたは最後に騙される!」みたいに書かれるあれです。
しかし、勘の鋭い人ならわかってしまうようなトリックなので、そこをメインに楽しまなくてもいいと思ってます。
私が満足しているのは、登場人物の機微の描写です。
文字を読んでいるだけなのに、その人物の動きが脳内で映像としてちゃんと動きを持って再生されるのです。
特に途中で出てくる貫太郎の動きは面白く、いちいち笑ってしまいました。
この文章技術に関しては作者の武器と言ってもよく、他の道尾秀介作品でも感じられる要素です。
私がこの作者のファンになった原因でもあります。
そういうわけでこの人の作品にはドラマ化の必要は全くなく、小説こそが最高の媒体と言えるでしょう。
とは言え私は阿部寛もかなり好きでして(笑)、ドラマの方にも非常に興味があり、見ようか迷っているところであります。