【考察】『逢魔宿り』品のあるホラー語りで読者を没入感のある恐怖体験に引き込む/三津田信三【ネタバレ感想】

2023年3月に出版された三津田信三さんのホラー小説、『逢魔宿り』を読みましたので、その感想や考察などの記事になります。

三津田さんの作品は『禍家』や『凶宅』などの家シリーズや、刀城言耶シリーズなどが有名ですが、今回ご紹介するのはそういったシリーズモノとは関係のない独立した短編集になります。

全部で5話になるので、それぞれあらすじと感想・考察を書いていきたいと思います。

どんな内容か

ホラー短編集にはなるのですが、それぞれの話で作者の実体験による語りから始まり、途中から本編の怖い話がいよいよ開始されるという、ちょうど落語のような構成になっています。

本筋の怖い話自体はそれぞれ独立はしているのですが、最後の5話目でそれらがほんの少し関係性を持ち始めるという面白い作りにもなっています。

ホラーのジャンルとしては、ガッツリ幽霊的な存在が出てきちゃうタイプのモノになります。

ホラー苦手な人は寝る前に読むのは注意が必要ですね!

お籠りの家

あらすじ

 小さな男の子が、父親に連れられて、人気のない山奥の中にある民家に行きます。

そこには一人の老婆が住んでおり、男の子はそこで1週間すごす「おこもり」というものをやることになります。

老婆と二人きりで暮らし始めると、男の子の周りで奇妙な出来事が起こり始めます。

感想・考察

 ポツンと一軒家に出てくるような民家に小さい男の子が親と離れて何日か暮らさなきゃいけないというシチュエーションがもうホラーですが、そこに幽霊の存在も追加されてしっかり怖かったですね。

ただ、幽霊が嫌がる傘や剣などのアイテムを所持出来たり、幽霊についてある程度知ってる風のおばあちゃんがいてくれたりで、ある程度安心感を持って読めた気がします。

さて、この「おこもり」という風習(?)の意味や起源について作中では何にも説明がなされていないので、そこは読者の想像で補うしかないようです。

行きの電車を待っている時に、見知らぬおばちゃんが男の子に言ったセリフ、

「あんたが今から行く所な。小母ちゃんには怖い場所やって、よう分かるんよ。せやけどな、かというて行かんかったら、もっと忌まわしい何かが、あんたの身に起こりそうな気ぃも、小母ちゃんはしてるんよ」

この内容から、一種の厄払いのような儀式であることが推測されます。

話の最後でも語られているように、男の子の母方の家系に関係する呪いを打ち消す風習であるようです。

山の中で呪いは男の子が孤立している所を狙い、あわよくば喰らう腹づもりでいるため、老婆は剣を持たせて場合によっては自力で呪いを消させるようにしました。

老婆を「お爺さん」と呼ばせたのは、過去の何かの再現を行う必要があったためではないでしょうか。

昔お爺さんと男の子がその家に暮らしていて、呪いはその男の子を襲ったことがある。

その成功体験から、お爺さんと暮らす男の子を狙うようになったため、一緒に暮らす人がお婆さんであっても「お爺さん」と呼ぶ必要が生まれたと。

そして、物語では最後に寝室まで追い詰められて、その老婆に呪いが乗り移りますが、蚊帳の中までは侵入できないため諦めるしかありませんでした。

予告画

あらすじ

小学校教師がクラスに馴染めない生徒を気に掛ける。

その生徒は不思議な絵を書いていた。

子供たちが遊んでいる何気ない風景の中に、不自然に浮かぶ謎の球体……。

ある日子供たちが校庭で遊んでいると、6年生のドッヂボールの球が飛んできて一人の生徒の頭に直撃し、入院する大怪我となる。

まさにあの生徒の絵の通りの展開となり、急に恐怖を覚える教師。

やがてその絵の影響は教師自身にも降りかかっていく。

感想・考察

この話に関しては唯一考察する必要がないと言えます。

というのも、この話の最後に描かれた作者の語りで、この話の真実が明かされるからです。

そういう意味ではこの短編集の中で最も後味がよくてスッキリ出来る回であると言えます。

この予告画だけスピンオフで出してもいいんじゃないかというくらいです。

私は本編より冒頭の作者による話で出てきた、『日本児童画研究会』という本が気になりました。

実際にある本のようで、Amazonで調べてみたら1万円したので、ちょっと買うのを躊躇してしまいます。

この本の最初に出てくるという女子児童が自分が死ぬことを予期したような「予告画」がすごく気になります。

三津田さんが紀伊国屋書店でいくらで買われたのか知りたいですね。

某施設の夜警

あらすじ

作家を目指す主人公が、創作活動を続けつつ食い扶持をつなぐいい仕事はないかと探して見つけたのが夜間警備の仕事だった。

仕事を始めて会社からメールが届き、とある施設の警備の依頼が入った。

現地に行ってみると、そこはいかにも怪しい宗教施設であった。

そこには仏教における「十界」のような10つの世界を表すエリアに分かれており、それぞれに不気味なオブジェが設置され、それらを夜間に見まわりしなくてはならなくなった。

ある日主人公はその一角で不審な人影を発見する。

次第にそれが追いかけてくる気がして、その日は急いで逃げた。

日を追うごとに、段々とその人影が十界のエリア間を移動してきており最後の段になって恐怖の体験を味わうことになる。

感想・考察

このカルト染みた宗教施設の夜間警備というのが最高の舞台設定ですよね。

斜線堂有紀さんの『廃遊園地の殺人』でも人のいない夜の遊園地が舞台でめちゃくちゃ面白かったのですが、こういう誰もいない巨大施設って独特の魅力があります。

「某施設の夜警」で出てくる地獄界とか修羅界とかのそれぞれのエリアに、どんなオブジェが設置されていてどんな雰囲気化の描写がなされていて実際に自分がそこの警備で巡回しているような没入体験ができるのがこの話の最大の魅力だと思います。

考察要素についてもしっかり用意されていまして、飯迫さんの「……かかる」「……のこってる」発言ですね。

飯迫さんが死んでしまっているとした場合、飯迫さんの霊体がこの施設をまさに仏教の十界になぞらえて彷徨っている最中で、「成仏に時間がかかる」「〇〇界がまだ残っている」

と言っているのかもしれません。

よびにくるもの

あらすじ

祖母の体調が悪くなり、大学生の相田七緒は祖母のいいつけで、お盆休みに実家の家に香典を備えにいきます。

本当に何もない田舎で山の中にある家に入って行くのですが、そこは異様な空間でした。

人はたくさんいるのに、誰も喋っていません。

そして全員が七緒をじっと見てきます。

早く帰ろうと思いましたが、一人の年老いた女性に話しかけられ、蔵の2階にいる人を読んできて欲しいと言われます。

仕方なく呼びに行きますが、2階から帰ってきた返事は不自然に若いような不気味な声で、会う前に怖くなってその場から逃げてしまいます。

祖母の下まで帰ると、祖母は亡くなっていました。

そばにいた従兄弟が言うには、祖母の死ぬ前に知らない誰かが訪ねてきたと言います。

感想・考察

私の中ではこれがこの本の中で一番怖い話でした。

やっぱり人気の無い場所で一人で飛び込んでいって、幽霊にロックオンされていくっていく流れがシンプルながらゾクゾクします。

盲目喇という地名から霊の正体について考察しようと思いましたが、この地名自体もこの話の提供者から伏せるように言われていると最初に書かれているため、偽名に過ぎず参考になりません。

今回ばかりは考察のしようがなく、お手上げです。

逢魔宿り

あらすじ

松尾という装丁家が作者に会いたいと連絡したきた。

これまで本書で取り上げてきた4作品を読んだ事で、気になることがあったために実際に会って話がしたいとの事だった。

松尾は仕事の関係で原稿に目を通す場所として、仕事場に近い四阿(あずまや)で資料に目を通していた。

そこのある日老人がやってきて、自分の過去を語り始めた。

別の日に女の子がそこにいて、また不気味な体験談を語り始めた。

さらに別の日にはその女の子の父親を名乗る人物が待ち構えており、自身の恐怖体験を語った。

怖くなって松尾はそこには行かなくなったが、ある日女性が松尾の仕事宅を訪ねてきた。

部下に追い払わせたが、どうにも腑に落ちない。

30年前の話であったが、作者の短編の内容とこの怪しい家族の語る内容にも共通点が見られ、相談したくなったという。

感想・考察

今回はこの短編集の総仕上げ的な内容になっていて、全ての話を総括するような話です。

この四阿で怪談を語る怪しい家族ですが、それぞれ話が独立しているわけですから短編のなかの短編集という入れ子構造になっていてお得感があります。

考察するのは難しいですが、老人の話で出てきた山に潜む女の幽霊、それから女の子に影絵を見せた声、父親が学校で出会った妻ではない女。これらは同一の霊だったかもしれません。

そして最後に松尾の仕事場に訪ねてきたのはこの家族の奥さんではなく、まさにその霊だった可能性があります。

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