【考察】『神様ゲーム』納得しかけた最後に最大の謎を残して終わる推理小説(麻耶雄嵩)【ネタバレ】

『神様ゲーム』とは、麻耶雄嵩による推理小説で、子供向け推理小説のシリーズ「ミステリーランド」の第7回に出版されました。

今回はこちらの本を読んだ上での私なりの考察を書いていきたいと思います。

◇この記事の主な内容

あらすじ

ミチルの共犯者は誰か?

この小説の最大のミステリーとは?

あらすじ(Amazonより引用)

自分を「神様」と名乗り、猫殺し事件の犯人を告げる謎の転校生の正体とは? 神降市に勃発した連続猫殺し事件。芳雄憧れの同級生ミチルの愛猫も殺された。町が騒然とするなか謎の転校生・鈴木太郎が事件の犯人を瞬時に言い当てる。鈴木は自称「神様」で、世の中のことは全てお見通しだというのだ。そして、鈴木の予言通り起こる殺人事件。芳雄は転校生を信じるべきか、疑うべきか?

神様ゲームのルール

前提として神様(鈴木君)の言っている事は正しいという立場を取ります。

神様の発言を整理すると、

・猫殺しの犯人は秋屋甲斐

・秀樹を殺したのはミチル

・共犯者がもう一人いる

猫殺しの犯人は秋屋という発言に関しては、物語冒頭で、鈴木少年の言っていることが絶対に正しいことを決定づけるために用意されたものでしょう。

この時点で、この小説は神様が言っていることが正しいという前提で、不可解な点を読者が推理していくという遊びを残した小説であると言えます。

それが「神様ゲーム」というタイトルに込められた意味ではないでしょうか。

最後の推理が難解すぎて、そもそも鈴木少年の言っていることが間違っているのではないかという考察もありますが、そうなるとルールが壊れて「神様ゲーム」が成立しないので、ある意味タイトル詐欺になってしまいます。神様が言うことは正しいという前提は譲れない部分ですね。

ミチルの共犯者の正体

上に示した前提を元にして考えると、実は読者には推理する余地はもうなくて、芳雄の母親が共犯者ということになります。

小説の最後にケーキの火が飛んで芳雄の母親の衣服から燃え広がり、全身火だるまになって終わるわけですが、これが神様の天誅によるものです。

ここで本当に神様の天誅は正確に発動するのか? という疑問が生まれますが、芳雄が神様に秀樹を殺した人物に天誅を下すことをお願いした時、実際ミチルに時計の長針が刺さった後、鈴木少年は芳雄にウインクをしていました。

神様の口からそれが天誅であるとの直接の発言はありませんが、その後の病院での会話で、

「もう疑っていないよ。鈴木君が天誅を下してからは。

という芳雄の発言に対して、特に否定することもなく「そうだよ」と答えているので、神様の天誅の能力は正確に発動されると考えていいでしょう。

ケーキの蝋燭の火の粉が、例え衣服に燃え移ったとしても、ガソリンに引火したように一瞬で燃え広がるというのはちょっと非科学的な描写に思えます。

それを納得するには、やはり「神の天誅」によるというオカルト要素に頼らざるを得ないということで、共犯者は芳雄の母親だという結論が割り出せます。

犯人が分かったうえで理解に苦しむのが、

「……ひとつ訊いていいかな。どうしてミチルちゃんは英樹を殺したの?」

「エッチの現場を見られたからだよ。日頃から山添さんは集合のない日にあの家で共犯者とエッチなことをしていたんだ。

という二人の会話。

芳雄の母親とミチルが、鬼婆屋敷でみだらな行為をしていた(この時点で子供が読む本じゃない)というのは、常識的な感覚では想像しにくいシチュエーションなので、多くの読者の頭に混乱をもたらす原因になっているようです。

もう一つのミステリー(ミチルの父親の正体)

私の中で解決してない問題がありまして、それが

・芳雄は両親の本当の子ではない

という神様の発言。

これは芳雄が他所から取ってきた子供とも、両親の片方の不倫による子供とも取れます。

しかしおそらく母親の不倫でできた子で、父親とは血が繋がってないと判断できるヒントが書いてあります。

でもぼくはクラスの中では貧弱なほうで、運動も中の下。母さんが小さいからそのせいだと思うのだけれど、父さんは「おれの子にしては成長が遅いんじゃないのか」といつも心配している。

神様の発言と違って、これを決定打にするには弱いですが、作者がわざわざこんな文章を入れたことに意味があるような気がします。

そして、このように母親との血の繋がりを説明されている人物がもう一人います

お母さんは鼻筋の通った美人で、結婚前はコンパニオンをしていたそうだけど、ミチルちゃんもその遺伝子を確実に受け継いでいた。

考えすぎかもしれませんが、芳雄とミチルだけに母親との類似性を指摘している点が気になりました。

そのように考えると、芳雄が鬼婆屋敷の捜査に行きたいと言った時にミチルがついていくと言った時の行動も気になってきます。

ぼくは思わずミチルちゃんの手を取った。全くの無意識だった。

普通小学生男子が好きな女の子の手を握る時は、ドキドキしながら意を決して握ると思うのですが、無意識に手を握れるというのは、大分距離の近い存在であるはずです。

芳雄が親友の秀樹が殺された事件の真相を突き止めたいという意志に対し、ミチルがそれに賛同してくれたことに対して急に親近感を覚えたという捉え方もできますが、それならそういう風に心情描写を入れてもいいのにただ「無意識だった」とあっさりした描写に留めているのが気になります。

つまり私が何を言いたいかというと、芳雄の本当の父親と、ミチルの父親は同じ人なのではないかという説です。

小説の序盤の方で、ミチルが芳雄の家の事を何回か聞いてきたというのも、ミチルが芳雄の事を兄弟だとうっすら勘付いていて、その真偽を確かめたかったのかもしれません。

いずれにしても芳雄の母親が、いよいよやりたい放題のヤバイ人物になってきてしまいますが、それなら物語最後の天誅は因果応報と言えるでしょう。

まとめ(感想)

秀樹殺害の共犯者は芳雄の母親

芳雄とミチルは腹違いの兄弟の可能性がある

私の考察は以上となります。

読んでみた感想としては、読みやすくて面白かったです。

推理小説としては、真犯人の犯罪動機とかが納得できるものではないので、そこは若干評価が下がる部分ではあります。

ただ一周2時間くらいで読めるので、読者に推理させるタイプの小説としては2周目を読み始める事への抵抗が少なく、実際私も2周読んでみて上に描いた仮説を思いついたので、そういった意味でこの短さは良心的ではあります。

難解な考察に挑むのが好きな読者の方は是非読んでみて下さい。

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