【感想】『BLUE』平成の時代が凝縮された、社会派ミステリー(葉真中 顕)
こんにちは、くらせです。
葉真中顕さんの『BLUE』を読みました。葉真中さんの本を読むのはこれが初めてなのですが、平成生まれで子供から大人になるまで平成の世で生きてきた私にとって目を見張る内容でした。全ての平成世代に読んでいただきたい小説です。
まずはあらすじを載せておきます。
あらすじ(Amazonより引用)
平成15年に発生した一家殺人事件。最有力容疑者である次女は薬物の過剰摂取のため浴室で死亡。事件は迷宮入りした。時は流れ、平成31年4月、桜ヶ丘署の奥貫綾乃は「多摩ニュータウン男女二人殺害事件」の捜査に加わることに。二つの事件にはつながりが……!? 平成という時代を描きながら、さまざまな社会問題にも斬り込んだ、社会派ミステリーの傑作!
内容紹介・ネタバレなしの感想
あらすじにもあるように、とある一家が5人全員死亡している惨たらしい事件が起き、その真相に迫っていくという殺人ミステリーです。小説の後半では、別の殺人事件を追う内容に変わりますが、根本的には最初に言ったように、青梅事件と呼ばれる一家殺人事件が最後まで中心となって話が展開していきます。これだけ聞くと、ミステリー小説をよく読む読者の方にはありがちな話で興味を持ちづらいかもしれません。しかし、この小説の多くの人に評価されている理由として考えられるのが、この記事の冒頭で書いたように、平成という時代を実際にあった出来事や流行った歌などから、小説全体を通して存分に懐かしむことが出来るという部分です。この小説、平成を生きていた日本人なら誰でも思い出すことが出来る、ヨン様とか浜崎あゆみとか、具体的な名前がそこら中に出てきて楽しめます。ただ懐かしいだけじゃなくて、小説と現実世界との境界が曖昧になり、小説の物語が本当に起こったことのように感じられます。
一方で、上に描いたような懐かし要素はあくまで平成の表の明るい世界で起きていたこと。その裏では児童虐待や合法麻薬、外国人技能実習生の違法労働などが行われており、その辺りまで深く突っ込んで描写したのが、この小説の力強さだと私は思っています。社会派の小説なので、このような日本社会の問題点に触れるのはもちろんですが、そういった暗い世界観の中にも例えばSMAPの『世界に一つだけの花』みたいな懐かしくて全く明るい印象しかない平成カルチャーが散りばめられているので、読者としてはメンタルのバランスを保ちつつ読み続けることが出来ます。それに加え、当時の政治状況や重要な出来事なども物語の隙間に挿入されているので、新聞を読みながら小説を楽しむみたいな不思議な読書体験を味わいました。このように作者の作風というのを強く感じる小説というのは同じ作者の他の作品も読んでみたくなりますね。
ミステリーの部分について、この小説は推理小説ではないので、読者が推理するような部分はなかったと思いますが、いわゆる叙述トリックのようなものや、「あの時のあれはあの人だったのかー!」みたいないい意味で騙された部分もあり、上手く出来ていると思います。登場人物にもそれぞれにバックグラウンドがあって、それらの心理描写も無駄なく置かれていました。読み終わった後の一つの時代を終えた感は中々表現しがたいです。読んでもらうしかないですね。