【感想】『煉獄ふたり』幽霊なのに不自由すぎる!体の一部しか触れられない可哀そうな幽霊たち(岩城 裕明)
『牛家』で第二十一回日本ホラー小説大賞佳作に選ばれたホラー作家、岩城 裕明さんの2015年の小説、『煉獄ふたり』を読みました。
これも一気に読んでしまうくらい面白かった。
簡単に言うと幽霊目線のホラー小説みたいな感じです。
あらすじ(Amazonより引用)
親友と喧嘩した日に事故死した女子高生。妹の成長を永遠に見守りたいと願う兄。廃ビルで怪奇現象を演出する幽霊劇団――。死してもなお、「煉獄」で思い惑う幽霊たちは、生者とかかわるために、便利屋の幽霊・キリンとアオバのコンビに助けを請う。その依頼と引き換えに、成仏させられてしまうとは知らずに……。日本ホラー小説大賞佳作の新鋭がおくる、おかしくも切ない幽霊譚!
どんな小説か?
まず本書は6話で構成されており、それぞれが独立した話で一話完結にはなっていますが、どこか少しずつ繋がっている部分があって、最終的に綺麗にまとまって終わるようになっています。
そして各話の主人公となるのが、この世に未練を残した幽霊の方々であり、彼らはあらすじにあるように「煉獄」という世界というか、状態に陥っています。
物語最初の方でこの煉獄について正確に説明がなされるのが、この小説の特徴となる部分で、この煉獄というのが幽霊でありながら現世の物体に対して全く触れることも出来なければ、通り抜けることも出来ない世界なのです。
比較のために同じく主人公がいきなり死んで幽霊になるところから始まる少年ジャンプの人気漫画、『幽遊白書』を例に挙げますと、そちらでは幽霊がいろんな壁を通り抜け、映画をタダで見れたりと便利この上ないですが、この小説では壁が通り抜けられない上に、自分から物体に干渉出来ないので、例えば部屋から出ようと思ったときに生きている人間にドアを開けて貰わないといけないので、めちゃくちゃ不便です。幽霊が弱い設定なのです。
そして表紙に描かれた男と少年が、この小説の中心人物となる存在です。各話それぞれ3話と5話以外は別の人物の視点で描かれますが、どれもこの二人、キリンとアオバがどこかに出てきます。煉獄で存在している幽霊は、体のどこかのパーツを有しており、幽霊が成仏する時そのパーツを奪うことが出来ます。その肉体パーツを死ぬ前の自分の体重分集めることが出来ると、なんと現世に生き返ることが出来ると言われており、キリンはある目的のためにそれを集めているのです。
各話紹介
第一話 黒い指
書道部の女子高生の話。部員の女の子が事故で死んでしまい、部室で怪奇現象が起こる。
第二話 優しい兄
病気で死んでしまった兄が、妹の家で起きる奇妙な現象を解決しようとする。
第三話 ボウリング場の女
廃墟となったボウリング場で夜な夜な上演される死の演劇。
第四話 守護霊
鼻炎のせいでいじめられていた女の子が、公園で出会った瀕死の男に守護霊になってくれと頼む。
第五話 除霊師
幽霊を捕らえてその存在を奪う幽霊がいる。トンネルに潜む最強の幽霊に挑んだ先に真実を知る。
第六話 再開
虐待を受けていた少年が死んでしまい、幽霊の男と出会う。物語の結末。
読んでみての感想
今回は『牛家』や『三丁目の地獄工場』に見られるような作者の変態性は抑え目な印象でした。第二話に関しては少しその片鱗が見れたようで嬉しかったです。
それよりも今回は各話それぞれ会談話のようなじんわり怖い雰囲気を纏っていて、そこを楽しむことこそが本書を読む有意義な接し方であります。
煉獄というある種、幽霊にとっての異世界のような所で、どのように現世の人間に干渉していくか、その試行錯誤からくるゲーム性を楽しむも良し。
序盤から登場する謎の幽霊男とショタ。彼らの関係性や目的とは何なのか、その謎を解き明かすミステリーとして読むもよし。
一話毎の話も面白くて、それぞれが独自の世界観を持っています。しかもちょっとずつ内容が繋がっているから後になるほど納得感が強まっていって楽しい。
短編集であると同時に群像劇でもあるというような、独立性と継続性を綺麗にミックスさせた小説の構成が素晴らしいと思いました。
恐怖の演出は抑え目だと思いますので、ホラー小説苦手な方でもおすすめできますね。