【感想】『月夜の島渡り』/沖縄を舞台にした幻想的な恒川光太郎ワールド
どんな本か
沖縄の島々を舞台とした、恒川光太郎さんによる短編集です。ジャンルは一応ホラーという事になると思いますが、本書も恒川光太郎さんらしい世界観としか言いようがない内容です。
全部で7つの短編から構成されています。それぞれのお話は独立しており、話の繋がりはないのですが、沖縄の島々を舞台にしているということもあり、ひとつの短編を読み終える毎に自分の中に不可思議な沖縄の世界観が段々と出来上がってゆくという不思議な読書体験を味わえます。そういう意味では『南の子供が夜いくところ』とイメージ的に重なる部分はある作品です。こちらにハマった人は是非読んでみて欲しいと思います。
気になった話
短編である以上自分にとって、面白い作品、刺さる作品と色々出てきます。中でも「夜のパーラー」はシンプルに怖くて好きです。パーラーとは沖縄で簡易店舗を意味するらしく、軽く食事が出来るようなお店です。男が夜に何となくそこに行き、そこで働く女と出会うのですが、それが絶対出会ってはいけないような人種だったという怖い話。
最後の『わたしはフーイー』はこの短編集の表題作と言ってもいいのではないでしょうか。この話だけ他の話よりスケールが大きく、沖縄の歩んできた歴史を感じることが出来る話です。少し『雷の季節の終わりに』の面白さに通じるものがあります。
まとめ
『月夜の島渡り』は恒川光太郎さんの作品の中でも、結構面白い方の短編集だと思います。沖縄の空気を感じることが出来ますし、南洋の島々の空気感というのも伝わってきます。恒川光太郎さんの淡々とした文章から滲み出る不穏さと魔術性に浸りたい方は買って損はないでしょう。