【感想】『夜行』/森見登美彦が描く異色のホラー小説

あらすじ

「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」
私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。

森見登美彦さんの他作品との比較

この小説を私はホラー小説だと思ったのですが、おそらく人によってどういったジャンルに入れるかは変わってくると思います。それくらいこの小説は一言で表すには難しい小説です。主人公が経験する「神隠し」のような出来事に着目するなら「和風ファンタジー」に分類されると思います。いずれにせよ、従来の森見登美彦作品とは全く雰囲気の異なる小説であることは間違いありません。例えば『夜は短し歩けよ乙女』や『有頂天家族』を読んだ人なら、『夜行』にはそれらのような軽快な語りや、明るいコメディ調の雰囲気がないことに違和感を覚えるかもしれません。私が読んだ『新訳 走れメロス』には少し森見登美彦さんの「闇」の部分を感じることはありましたが、この『夜行』に関してはいわゆる「腐れ大学生」達も出てきませんし、まさに闇を盛り込んだような話だと感じました。

私のネタバレ無しの感想

改めてなにが面白い小説だったかを考えてみます。私がこの小説をホラー小説だと思ったという事は、まず第一にホラー要素が面白かったという事です。そのホラー要素というのが幽霊による怖さというよりは、日本人だけに通じる日本の土着や信仰、また日本の風景に宿る寂しさなどから生まれてくる怖さなのです。そういう意味では恒川光太郎さんの小説に近いものはある気がします。ただ森見登美彦さんの場合は日本を旅しているような感覚が強いですし、恐怖の描写がもっと直接的だと思います。読み終わった後に、日本のどこかにある不思議なスポットを旅してきたような読後感がありました。その辺りがまさしく文中にもあった「夜行列車の夜行か、あるいは百鬼夜行の夜行かもしれません。」という表現に現れている気がします。

まとめ

『夜行』は森見登美彦さんの書いた、異色の和風ファンタジー、あるいはホラー小説、もしくは日本紀行です。他の森見登美彦さんの小説にハマったから、この作品もと思って読んでしまうと、期待していたのと違ってびっくりするかもしれません。なぜなら『夜行』は、それぞれの登場人物が語る「夜行」という銅版画に関するお話を読み進めていくちょっと怖い小説だからです。日本国内を旅行している時に、ちょっと怖いなと思う場所ってありますよね。そういうスポットに何か惹かれるものがある人には、この小説は刺さるんじゃないでしょうか。最後に私が一番印象に残ったセリフ部分を紹介させていただきます。

「あんな駅で降りることがあるんだろうか、車窓から見えたあれは何だったんだろうとか、そんな思いが心をよぎるときは、必ず後日そこへ行くことになるんです。こんなところには二度と来ないだろうなって思ったとしてもね。これは不思議ですよ。まるで運命に引き寄せられるみたいで」

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