【感想】『夏へのトンネル、さよならの出口』/時間を失う恐怖と取り戻したい過去(八目迷)

あらすじ(Amazonより引用)

海に面する田舎町・香崎。
夏の日のある朝、高二の塔野カオルは、『ウラシマトンネル』という都市伝説を耳にした。
それは、中に入れば年を取る代わりに欲しいものがなんでも手に入るというお伽噺のようなトンネルだった。
その日の夜、カオルは偶然にも『ウラシマトンネル』らしきトンネルを発見する。
最愛の妹・カレンを五年前に事故で亡くした彼は、トンネルを前に、あることを思いつく。
――『ウラシマトンネル』に入れば、カレンを取り戻せるかもしれない。
放課後に一人でトンネルの検証を開始したカオルだったが、そんな彼の後をこっそりとつける人物がいた。
転校生の花城あんず。クラスでは浮いた存在になっている彼女は、カオルに興味を持つ。
二人は互いの欲しいものを手に入れるために協力関係を結ぶのだが……。

どんな内容か

『夏へのトンネル、さよならの出口』は第13回小学館ライトノベル大賞ガガガ賞と審査員特別賞を受賞したライトノベルです。ジャンルは青春物になります。「ウラシマトンネル」という、そこを通るとなんでも願いを叶える代わりに歳をとってしまうという都市伝説をめぐるお話。相対性理論によると、宇宙飛行士が光速に近いスピードで地球から離れた場所に飛んでいき、また地球に戻ってきたときに宇宙飛行士が体感として経過した時間より地球の時間が長く経過した現象を「ウラシマ効果」と言いますが、このような現象がトンネルで発生しているということです。

物語の雰囲気としては、ひと夏の思い出をめぐる青春ストーリーのような仕上がりになっていて、学校生活や高校生ならではの悩みなどもしっかりと描かれています。ただこれは恋愛小説というよりは、もっと別のところにテーマがあって、それは時間の流れというものを深刻に捉えるという事だと思います。それについて、重大なネタバレをしない範囲で感想を述べていきたいと思います。

私が読んでみた感想

まずはシンプルに面白いライトノベルでした。ライトノベルというよりは、極端なヒロイン属性やラブコメを控えた内容、挿絵の少なさから一般小説に近い印象を受けました。若者向けの内容であり、一部現実離れした設定もあるのでアニメ化に向いている作品と言えます。一巻完結のライトノベルであり、読み終わった後『君の名は』のような一本のアニメ映画を観終わったような満ち足りた読後感を味わえます。

人物の描写に関して、表紙に描かれた少女・花城あんずのキャラクター性が個人的に好きでした。かわいいというよりは惹かれると言った方が適切かもしれません。花城の考え方には芯が通っており、女子高生が通常やらないような行動原理を持っていて、一方で主人公カオルの言葉に対するリアクションが子供っぽくておかしいのです。このような人間的な魅力があるので、カオルや川崎の彼女に接する態度に感情移入できます。

さて、私がこの本のテーマだと思っている「時間の流れ」について話させてください。このラノベで出てくるウラシマトンネル、それは作中で『ドラゴンボール』の「精神と時の部屋」の逆バージョンと説明されているように、そのトンネル内で過ごせば過ごすほど現実の時間は進んでしまうという恐怖を孕んでいます。しかしその代わり自分の願いが叶うかもしれないのです。ただそれでも進めば進む程、自分が目的を果たして出てきた時には自分は何も変わらないまま世界に置いてけぼりにされるという、まさに浦島太郎状態になるって結構怖いなと思いました。こういう恐怖感ってホラー小説でも経験したことがなかったので、そういう意味では新感覚ホラー小説ですよねこれ。

作者はあとがきで、気づいたら何時間も経っていたというような面白い小説を書きたいと言っていました。まさに小説を読むという行為はウラシマ効果を疑似体験するようなものかもしれません。気づいてみれば私も色んな本を読んできて、既にアラサーになっていました。そう考えると人生って光速のように過ぎていくから、ウラシマ効果そのものですね。

まとめ

『夏へのトンネル、さよならの出口』は、第13回小学館ライトノベル大賞を受賞した新感覚の青春ライトノベルです。ウラシマトンネルという願いを叶える代わりに時間を奪うという都市伝説。それは高校生の塔野カオルにどんな結末をもたらすのか。一巻完結で、中身のあるストーリーのライトノベルを読みたい人におススメの小説です。

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【感想】『夏へのトンネル、さよならの出口』/時間を失う恐怖と取り戻したい過去(八目迷)” に対して1件のコメントがあります。

  1. Bev-N より:

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