【感想】『マインドエラー』レンタルDVDショップのアルバイトが疑似体験できるサスペンス小説(永山 千紗)
Kindleのおすすめで出てきた『マインドエラー』という小説を読みました。
タイトルから最初想像したのは、なんらかの理由で人間の心に不具合が生じて、それがとんでもない凶悪な事件に発展していくようなパニックものの話です。
実際は殺人は扱っていますが、もうちょっと実生活にスポットを当てた内容でした。
面白いか面白くないかで言うと、面白かったです。
私の感想を言う前に、まずはあらすじを載せておきます。
あらすじ(Amazonより引用)
章敬は春から通うはずだった大学のキャンパスを東日本大震災で失い、怠惰な日々を送っていた。そんなある日、声をかけてきたのは近所の幼馴染、果瑠。美容専門学校に通っているという果瑠は、死への願望を冗談めいて話す。数日後、彼女は自宅の屋根裏部屋で無残な遺体となって発見された。直前、章敬のバイト先で妙なDVDを借りていた果瑠。その死は自らの意思なのか、殺人なのかーー。
どんな小説か
大きな括りで言うと、悲惨な家庭で育った人間が心を病んでしまったり、犯罪を犯してしまう話です。
犯罪をテーマにした小説では、貴志祐介さんの『青の炎』のように犯罪者視点で物語が進むパターンと、ミステリー小説のように犯人を探していくパターンとありますが、この小説は後者ですね。
ですので内容は重すぎない感じですが、犯人を推理するような小説でもないです。
というかこの小説、前半と後半で内容とか雰囲気にかなり変化があるんですね。
前半では主人公の生い立ちとか、レンタルDVDショップのアルバイトの描写で結構持っていかれるのですが、このレンタルDVDショップのアルバイトの仕事内容がめちゃくちゃ詳細に記述されてるんですよね(笑)。
作中では「MARUYAMA」という名前で登場するレンタルDVDショップですが、要するにTSUTAYAですね。
作者は以前TSUTAYAか、それに類似する仕事をされていたんでしょうか。
早番と遅番の引継ぎとか、従業員と社員との距離感とかも妙にリアルなんですよね。
そこをかなり文字数をかけて描写しているので、アルバイト経験のある人間からしたら長い時間をかけて主人公に感情移入するいいきっかけにはなりますが、そうじゃなかったりバイトに嫌な思い出があって思い出すだけでも鬱になる人とかにとってはどうなんだろうって思いました(笑)。
おすすめポイント
一つには上に書いたように、レンタルDVDショップでの仕事内容を疑似体験できること。
そしてもちろん、バイトがメインの小説ではありませんから、面白いのは後半からですね。
ストーリーに転換が起こるのは、主人公にとって重要な人物が事件に巻き込まれてからです。
この事件が起こってからですね、主人公が警察に疑われるようになったり、職場でも危うい立場になったりと大きく物語が動き出すので、面白くなってきます。
これは前半にあれだけ長くバイト生活が続いたからこそ、後半の急展開で盛り上がるのかもしれませんね。
事件の真相に迫っていく過程で、今回の事件の発端になるような過去の事件に関わった人たち。彼らもまたかなり悲惨な人生を送ってきたことがわかります。
こういった、自分には体験したことのない不幸な人生を理解するのも、物語に深みを持たせる重要な要素だと思います。
一方で主人公自体は、震災によって大学生活が脅かされたとは言えそこまで悲惨な人生を送ってきたわけではありません。
主人公の性格はそれなりに明るく、メンタルもそこそこ強いので、扱っているテーマが暗いわりには安心して読むことができ、そこが私がこの小説の気に入っている部分でもあります。
まとめ
『マインドエラー』はレンタルDVDショップのアルバイトが疑似体験できるサスペンス小説です。
作者の永山千紗さんは、2021年『ソウルハザード』で小説家デビューを果たしています。
期待の女性作家ですね。そちらもKindle Unlimitedで読めるので、読んでみよかなと思っているところです。
『マインドエラー』に話を戻しますと、犯罪を扱う小説は星の数ほどあれど、斬新にもレンタルDVDショップの内容を詳細に記述し、殺人事件にもDVDを絡めた作品は、初めてじゃないかなと思います。
DVDのことばっか書きましたが、学校の在り方の問題とか震災が与えた社会心理的影響なども取り扱っており、色々と考えることがあって面白い小説だと思います。