【感想】『プロパガンダゲーム』大手企業採用試験に残った8人が架空の国家の情報戦を繰り広げるという唯一無二の小説(根本聡一郎)

あらすじ

大手広告代理店の最終選考まで勝ち抜いた男女8人。

選考の内容は、政府チームとレジスタンスチームに4人ずつで分かれ、架空の国家同士の戦争を巡る情報戦を繰り広げること。

架空の国家パレット王国では、隣国のイーゼル国と島を巡って領土問題を抱えており、政府チームはイーゼル国との戦争を国民に納得させるのが与えられた任務である。

一方レジスタンスチームは政府が主張する戦争に反対の立場を取り、戦争を起こさせない事がその存在意義となる。

果たしてどちらのチームが勝つのか、そして最終面接でこの舞台が用意された真の意図とは……?

感想(ネタバレ無し)

根本聡一郎さんのご著書は『人材島』だけ読んだことがあります。

有名な『ウィザードグラス』もそのうち読むつもりです。(すいません)

『プロパガンダゲーム』を読んだ感想としては、面白かったです

最初の4分の3くらいを最終選考であるプロパガンダゲームという情報戦に費やしていますが、片方が優位になったと思いきやもう一方が反撃の情報をぶつけてきて形成が逆転したりと、一つのバトルとして手に汗握る展開に興奮できたのが楽しめた主な理由です。

物語に敵を設定せずに、2チームを戦わせる様子を読者が追うという形式を取っているので、読者はどっちを味方していいかわからなくなりそうですが、片方が優位に立った時にどうしてもやられた側が可哀そうだなと思ってしまう。そこに反撃の芽が現れてきてまた形成が逆転するという展開が繰り返されることで、実質両方に感情移入して応援し続けることが出来るという構造は素晴らしいと思いました。

この小説は情報を武器にして戦うということが一つのテーマだと思うのですが、この小説を読んでいると、情報を一方的に受け取るだけの国民というのは、出される情報次第で右にも左にも意見が誘導される非常に危険な存在だなと感じてしまいます。

こういったメディアリテラシーに対する意識を高める啓蒙書としての価値もある小説である言えます。

選考が終わった後の参加者だけて集まる飲みの場で、また別の展開があるのも物語にボリュームを持たせていてよかったです。

気になったところ

レビューで他の方が言っているように最後にもう一押し欲しかったというのもわかります。

石川さんの正体も、読者の想像に任せるような終わり方で、なんとなく消化不良ではある。

まるで続編があるような「俺たちの戦いはこれからだ!」という終わり方も個人的には嫌いじゃないので、そこまで気にはなりませんでしたが。

物語が始まるころに、選考に残った大学生たちの自己紹介の流れで8人がバーっと紹介されるのですが、個性が弱く印象に残りづらいと感じました。

中盤辺りではさすがにそれぞれの個性は見えてきましたが、やはり最後の方でも特徴がつかみ切れないせいで混乱することがありました。

先にキャラクター性を把握しておくといいかもしれません。

人物紹介

後藤 政府チーム側の主人公。父親が政治家のため、政府寄りの考えを持つ。

椎名 真面目な好青年。

香坂 癒し系女子。

織笠 お育ちのいい女子。

今井 レジスタンスチーム側の主人公。ネットのノリをよく理解している。

国友 今井の頼れる相棒。スパイグッズを自作しちゃうちょっとヤバイ人。

越智 関西弁を話す女子。ほぼ女子っぽさがない

樫本 ザ・フェミニスト

こうして見てみると、レジスタンスチームの方が明らかにキャラが濃いメンバーが揃っていますね。

特に樫本は今作で最もキャラ立ちしている人物で、こんな露骨なフェミニスト中々いないだろってぐらいの中々がインパクトが強い人です。

「案ずるより産むがやすし」という表現に対して、「産むのが簡単だと思わないで欲しい」という返しはもはやギャグかなというくらい笑ってしまいました。

樫本のこういう切り返しに対する、今井のイライラ感が毎回面白かったです。ある意味一番の苦労人ではないでしょうか。

まとめ

今後現実世界では、自動生成AI画像や映像がどんどん拡散されていき、何が本当で何が嘘かが見分けがつかない大混乱の時代の到来が懸念されています。

そういった中で本書の情報というのは発信者の思惑によって扇動されるという事情は、改めて自身のメディアリテラシーの在り方を問う内容なのではないでしょうか。

政府チームとレジスタンスチームの情報戦の描写も多角的に描かれていて、読んでいて何も感じないということはないはずです。

『人材島』の時にも感じましたが、作者の根本さんは現代社会の問題点を浮き彫りにするような物語を描くのが得意なのだと思います。

大学生男女8人が採用面接で架空の設定をもとに情報戦を繰り広げるというストーリー自体が唯一無二ですので、読んでみる価値は大いにあるでしょう。

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