【感想】『夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦)

宣言通り読了いたしました。また私の中で新たなタイプの小説のスタイルが扉を開いたようです。大げさに言ってしまえば、私にとって人生で初の森見登美彦作品の小説を読みました。最近映画化されたこともあって、私と同じように今作で初めて森見作品に触れた方も多いのではないでしょうか。もっとも、今読み終えた私は明らかに流行に乗り遅れているわけですが、いい小説はいつ読んでもいいものです。

人生で初などと申しましたが、私がかつて見たことがあったアニメ作品、『有頂天家族』と『四畳半神話大系』は同作者だと今回知りまして、お恥ずかしながら驚いております。しかし小説を読んだのは今回初めてですので、嘘ではありません。

この作品、アマゾンのレビューを見てみますと、多くの方が満足されているようで、私もそちら側の人間なのですが、残念ながら楽しめなかった方もちらほらおられるようです。彼らの感想文からその理由を想像してみるに、読むのに時間がかかったという事が挙げられると思います。

この小説は終始二人の主人公視点による軽快な物語進行が描かれており、それはしばしば状況説明を超えた話芸とでもいうような絶妙な言葉遊びによって繰り広げられております。この話芸を楽しむにはおそらく読者にはそれなりの読書スピードが求められると思うのです。『四畳半神話大系』のアニメくらいの速さで語り手に語らせるくらいがちょうどいいのではないでしょうか。私はこの本を4時間で読み終えることがでしましたので、もう夢中で楽しむことができました。この人の書く小説は何回か読んで完全にこの語調を自分の中に落とし込みたいとさえ思いました。逆にゆっくり読む方には厳しかったのではないでしょうか。単純に作風が合わなかった場合は仕方ないですね。

大まかなストーリーの内容としては、京都で巻き起こるドタバタハチャメチャ和風ファンタジーですね。最初は夜から始まるので、寝る前に読み始めるといいと思います。でも読み始めると寝られなくなるので、お気をつけて!最初は女の子視点の少女漫画的なストーリーかと思いきや、この女の子が天然の極みであり、しかし頭の中で扱う言い回しが面白く、独自の自己批判を展開するので憎めないのです。そしてその女の子を追いかける男の子がまさしく第二の主人公なのですが、完全にストーカーです。そしてあらゆる点で被害者の立場に追いやられるのでついつい応援したくなってしまう。そして彼女以上に自由奔放なその語り口は数々の読者を笑わせ、森見節の虜にしたことでしょう。私もその一人であります。そして出てくる登場人物が変人奇人のオンパレード。とっても明るいひと時を過ごせること請負です!

最後に内容と関係ないことですが、出版社に関する話を。この本をKindleで探すに当たって、Unlimited対象商品が、角川つばさ文庫のものだけだったので、そっちをDLしました。角川つばさ文庫とは、角川の独自調査により自社の出版物において児童の購買層が意外と根強いことが発覚し、児童向けに特化した書物を発行し始めたレーベルです。

本来私のような成人した大人が買うものではないのですが、これが意外と正解だったかもしれません。この文庫だと、途中途中にかわいい挿絵が入りますので、非常にイメージが湧きやすくなり、特に三階建て列車などは絵があって助かりました。ほぼ全漢字にフリガナが振ってあるのは正直読みにくかったのですが、慣れてしまえばどうという事はなかったです。むしろ子供はこの内容楽しめるのかな?と疑問になりましたけど(笑)。若干難しい本をラノベ化するという試みは面白いと思いましたので、こっちで読んでみるのもおすすめです。

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