『偉大なる夢』(江戸川乱歩)

厳密にはこのタイトルの書籍はKindleにはありません。『江戸川乱歩全集14巻』に収録されているので、そこから読むことになります。

江戸川乱歩といえば、怪奇小説、探偵小説で有名ですが、この作品はその中でも特殊であり、戦時中に『芋虫』が発禁になるなど、書物の内容の検閲が激化する中で、唯一乱歩が新しく書きおろした小説です。

太平洋戦争の真っただ中、既に米軍機が日本本土を空襲する戦況の中で、とある日本人研究員の男が音速を超える程の速度を持つ新型戦闘機を開発する技術を考案した。しかしどこから情報が漏れたのか、その研究員は暗殺されてしまい、その犯人はどこにも見当たらなかった。犯人の指紋と思われる痕跡を元に、疑わしい人物の自宅を捜査してみるが、そこはまるで錬金術師の実験場とも言えるような不思議な空間だった…。

なかなか江戸川乱歩とはわからないような異色の作品ですよね、フランクリン・ルーズヴェルトも登場します。他の乱歩作品の名作と比べて、ストーリーとして特別優れているかというと微妙な所です。やっぱりこの時代の貴重な資料として贔屓目に見てしまうかもしれません。

言論統制化ということで、結構日本上げ、アメリカ下げみたいな事があるのかなと思っていたら、意外とそうでもないような。一応途中明らかに文体が変わって、都市を空襲する米軍機に自国機が突っ込んでいく光景が勇姿のように刻銘に描かれています。ただこれ『防空壕』にも似たような描写があるので、実は乱歩自身この光景を目撃して不謹慎にも感動してしまったんじゃないかと思うんです。いや読んでる私自身そういう光景が浮かんできてちょっと感動させられてしまったので。こういうのは検閲への配慮とかで書けないと思うんですよね。

むしろ時代背景と、左翼的な内容の禁止という縛りの中で、自分がどれだけの小説を書けるのかというのを楽しんでいたんじゃないかと勝手に想像しています。

あとは乱歩は日本の勝利なんてまったく期待できなかった。だからこれは偉大なる勝利ではなく、偉大なる夢としたのではないかと。実はどこにも左右の思想を置いておらず、いろいろな解釈が出来る不思議な構造になっているんですね。

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