【書評】『人工知能は人間を超えるか』(松尾豊)

人工知能ってそもそもなんだろう? 最近では近い将来、AIによってあらゆる単純労働が可能になり、人間がその座を奪われると世間で騒がれるようになりました。じゃあAIって悪い存在なんだろうか。いつかAIによって人類が支配、あるいは淘汰されるなんて恐ろしい予想まで存在します。

しかし人工知能の専門家からすればそんな話は荒唐無稽で事実から乖離しているようです。人工知能学会倫理委員長であり、日本トップクラスの人工知能研究者の一人である松尾豊(まつお ゆたか)さんが、人工知能にあまり詳しくない方にもわかりやすいように、人工知能の歴史、現状、仕組など、本書で詳細かつ簡潔に語ってくれています。本書は学生時代から人工知能について考え、携わってきた松尾さんの力作であり、現在までの日本の人工知能の歩みを知る上での集大成だと思います。非常に内容が充実しており、明らかに理解が深まりました。

AIより以前に、人類は人類を超える存在を生み出してきました。例えば飛行機。元々は、空を飛ぶ鳥をモデルにし、翼を羽ばたかせて飛ぶ方法を模索してきました。しかし最終的に飛行を可能にしたのは、翼を羽ばたかせずエンジンによって推力を得て固定翼によって揚力を得る飛行機でした。このように、当初考えた方法とは全く別の要素によって代用し、その目的を達成する可能性がAIにおいても起こるかもしれないのです。つまり、現状は人間の脳のようなイメージをもってAIの開発に取り組んでいても、完成品は全く違う形で出来上がってしまうかもしれません。

このようにAIの発展には、不確定な要素が多々あるようです。松尾さんも、宝くじを買うような感覚で投資する分野だと言っています。しかし、2010年代に入って「ディープラーニング」という手法の登場によって、一気に将来性の高い分野になりました。詳しい内容については本書をお読みください。これはインターネットの普及とも関連しており、中国では国家事業として力を入れているくらいです。日本はこの点で遅れており、人工知能の分野に対して、大企業か国家的な金銭援助が必要だと思います。

実は1982年~1992年にかけて、「第五世代コンピュータ」という人工知能に通称産業省が540億円もかけた国家事業が存在したのは驚きでした。日本はバブル経済にわきかえり、アメリカから様々な圧力を受けている中で、世界一を目指すという気概をもったプロジェクトが打ち上げられたのです。ただ残念ながら産業に与える成果は得られませんでした。利用可能なデータが十分に揃うのはインターネット登場後であり、時代を先取りしすぎた計画だったようです。しかし海外の研究者を招いて交流を図ったり、国内の人材の育成に貢献したりと一定の成果はあったようです。

本書を読み終えての感想としては、人工知能を知ることで、我々人間の知能を知ることになるのではないかと感じました。AIがどのようにして大量の情報から共通の抽象概念を見出したり、社会問題の解決方法を導き出したりするのかを研究していくうちに人間の思考の仕組みについてもわかりそうな予感がしました。この辺は普段プログラミングをされる方の方が感じることも多いんじゃないでしょうか。

それから、人工知能の開発に苦心してきた先人たちの苦労を思うと、仕組もわからずに非常に高度で融通の利く「脳」という情報処理機能を持った自分が大変恵まれた存在だと思えるようになりました。何かを考える存在は今後も必要になってくると思うので、AIに出来ない人間的な思考を模索する意味でも読書を頑張ろうと思います。

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